おはようございます。
この記事を書いている、臨床工学技士のジャックです。
クリティカルケア領域で使用される、特殊な生命維持管理装置の1つ。
大動脈内バルーンパンピング(以下、IABP)についてお話しようと思います。
日々の業務に追われて、装置の効果や表示されている数値の意味、ケアの根拠など意外と分からない人も多いのではないでしょうか?
今回は、IABPの拡張と収縮のタイミングについてく書いたので、参考にしてみてください。
こちらも併せてチェック!
ここで記載している内容は、あくまでひとつの参考にして頂けると幸いです。
この記事によって起きた事故等におきましては、一切の責任を負いかねます。
IABPの製造メーカーは複数あります。より詳しく装置について知りたい場合は、製造メーカーの担当者に資料をご請求ください。
IABPの拡張・収縮のタイミング:まとめ
IABPのバルーンを拡張・収縮させるタイミングについて、まとめました。
- トリガーは、主に「心電図」または「大動脈圧」が使用される。
- 「心電図」の場合
バルーンの拡張は、T波の直上、またはその少し遅れたところ
バルーンの収縮は、P波の直後からQRS波の直前 - 「大動脈圧」の場合
バルーンの拡張は、ディクロティックノッチ※1にあわせる
バルーンの収縮は、大動脈圧が立ち上がる直前

IABPは、バルーンの拡張・収縮のタイミングが重要です。
タイミングを誤ると、心臓に負荷がかかり逆効果になることもあります。
適切なタイミングで動いていない場合は、医師や臨床工学技士に報告・ご相談ください。
トリガーは何を基準に選べばいい?
IABPのトリガー※2には、「心電図」と「大動脈圧」があります。
トリガーを「心電図」にすればいいのか、「大動脈圧」にすればいいのか、をお話します。

IABPでは、バルーンを動かすための「きっかけ」と考えるとイメージしやすいと思います。
- 動脈圧ラインから採血するとき(圧波形が消えるため)
- 動脈圧ラインのゼロ点校正をするとき(圧波形が0になるため)
- 動脈圧ラインが平坦な患者のとき(ディクロティックノッチがわかりづらい)
など
- 心電図にノイズが多いとき(皮膚と電極の抵抗が大きい、筋電が交じるなど)
- 電気メスを使用するとき(心電図にノイズが混入する)
など
IABPは基本的に「心電図」も「動脈圧」もモニタリングします。
IABPを駆動させる上でどちらの信号を「引き金」にした方が、心臓の動きに同調しやすいのかを見極めてみましょう。
タイミングの合わせ方
タイミングは前述した通り…
- トリガーは、主に「心電図」または「大動脈圧」が使用される。
- 「心電図」の場合
バルーンの拡張は、T波の直上、またはその少し遅れたところ
バルーンの収縮は、P波の直後からQRS波のの直前 - 「大動脈圧」の場合
バルーンの拡張は、ディクロティックノッチ※1にあわせる
バルーンの収縮は、大動脈圧が立ち上がる直前
で、問題ないのですが…
「モニタリングの波形が次から次へと流れていっちゃって、タイミングが合っているのかどうか分からない!」
と、いうこともあるかと思います。
そんなときにオススメなのが、アシスト比の変更です。
アシスト比を変更して、タイミングを調整しよう
心臓の拍動に対するIABPの補助の割合のことです。
毎拍動ごとに補助する場合は、1:1という設定に、2拍に1回補助する場合は、1:2という設定にします。
アシスト比を1:2の状態にすることで、IABP補助時と補助がない時の波形を見比べることができるようになります。
「IABP補助時の波形」と「IABPの補助がない時の波形」を見比べることで、バルーンの拡張・収縮の調整がしやすくなると思います。
オートモードって何だ?
バルーンカテーテル先端の光センサーと心電図の信号を、IABP装置自体が解析を行い、適切なタイミングでバルーンの拡張と収縮を行うモードのこと。

メーカーによって呼び名が「オート」だったり、「フルオート」だったりと異なるので、分からない場合は臨床工学技士にご相談ください。
最近のIABPは非常に優秀で、オートモードに設定するだけで適切なタイミングでバルーンの拡張・収縮を行ってくれます。

「うまく心臓の動きとIABPの動きが同期しない」「IABPのバルーンの動きが度々止まる」ようなことがありましたら、医師または臨床工学技士に報告・ご相談ください。
再び、まとめ
- IABPのトリガーは、主に「心電図」または「大動脈圧」が使用される。
- 「心電図」でバルーンのタイミング調整をする場合
バルーンの拡張は、T波の直上、またはその少し遅れたところ
バルーンの収縮は、P波の直後からQRS波の直前 - 「大動脈圧」でバルーンのタイミング調整をする場合
バルーンの拡張は、ディクロティックノッチにあわせる
バルーンの収縮は、大動脈圧が立ち上がる直前 - アシスト比を1:2に設定すると、「IABP補助時の波形」と「IABPの補助がない時の波形」を見比べることでき、バルーンの拡張・収縮の調整がしやすくなる。
- 最近のIABPは優秀で、オートモードに設定するだけで適切なタイミングでバルーンの拡張・収縮を行ってくれる。
さいごに
今回は、IABPの拡張と収縮のタイミングについて書かせていただきました。
次回はIABPの禁忌と観察のポイントについて、書きたいと思います。

動脈圧は上がりきった後下がるのですが、その途中で小さな山を形成し、再び圧が下がります。
この小さな山が大動脈弁の閉じたサインになります。