
リードレスペースメーカという医療機器をご存知ですか。
2017年に保険償還されたリードレスペースメーカは既に5000例の植え込み手術がされたそうです。
名前だけは聞いたことがあるけれど、実際に植め込まれた患者さんを見たことない。という方も多いのではないでしょうか。
今回はリードレスペースメーカの特徴や従来からあるリード付きペースメーカとの違い、などについて紹介します。
興味がある方は是非、読んでみてください。
ここで記載している内容は、あくまでひとつの参考にして頂けると幸いです。
この記事によって起きた事故等におきましては、一切の責任を負いかねます。
医療機器は日々進歩していますので、ここで掲載している情報が古くなっている可能性があります。
最新の情報については一般社団法人 日本不整脈心電学会やメーカーのホームページ等でご確認ください。
リードレスペースメーカ Micraとは


リードレスペースメーカは一種類だけ?
リードレスペースメーカ Micra(以下、Micra)は、メドトロニック社(本社はアイルランド)が製造・販売しています。
実は、日本で植め込まれているリードレスペースメーカは基本的にこのMicraという機種になります。
これは日本の保険診療で認められたものがMicraだけだからです。
おそらく今後は、他社(ボストンやアボット等)のリードレスペースメーカも薬事承認され、国内で取り扱われると考えられます。
心臓に直接植え込む
Micraは専用のカテーテルシステムを用いて直接心臓(右心室)内に留置します。
従来のリード付きペースメーカは、左胸または右胸の皮下にポケットを作ってそこへ留置するのが一般的でした。
(外科手術にあわせてペースメーカを植め込む場合は、腹部にペースメーカを留置する場合があります。)
Micraを植め込んだ患者さんの胸部レントゲン写真をみると、心臓内に小さなチップ状の機械が確認できます。
電子カルテに「ペースメーカ有り」の特記事項があるのに、胸腹部にペースメーカが確認できなかったり、ペースメーカリードが確認できなかった場合には心臓内にチップ状の機械がないか確認してみましょう。
モードはVVI(R)が基本
Micraの動作モードは、VVI(R)が基本となります。
VVIは心室の動き(QRS波)を感知して、徐脈にならないように心室を刺激するモード。
Vは心室、Iは抑制、を表してます。
抑制とは、自己のQRS波が出たときにペースメーカが電気刺激を行うのを停止することをいいます。
よく目にするモードにDDD(R)がありますが、Micraでは設定できません。
リードレスペースメーカと従来のペースメーカとの違い

電池交換
従来のリード付きペースメーカは、皮下ポケットにペースメーカがあるため皮膚を切開することで電池(ペースメーカ本体)を交換することが可能です。
リードレスペースメーカは、心臓の中に直接留置するため取り出すことができません。
そのため電池の寿命が短くなった場合には、新しいペースメーカを植め込む必要があります。
見た目
従来のリード付きペースメーカは胸部にペースメーカを植め込むため、ペースメーカの形が皮膚から浮き出ることが多いです。。
手で触ると硬いものが触れ、これは痩せている人ほど顕著になります。
リードレスペースメーカは心臓の中に直接留置するため、服を脱いでもペースメーカが入っているかどうかを見分けることはできません。
医療従事者はペースメーカが植め込まれていることを口頭で確認したり、ペースメーカ手帳で確認する必要があります。
またリードレスペースメーカは皮下ポケットを作る必要がないため、感染のリスクを下げることができます。
モードの種類
従来のリード付きペースメーカは、植め込むペースメーカの機種やリードの本数によってDDD(心房と心室の動きを同期させるモード、デュアルチャンバー)とVVIやAAI(心房または心室のどちらか一方に電気刺激を入れるモード、シングルチャンバー)を選ぶことができます。
リードレスペースメーカは、現在のところVVIが基本のモードとなります。
DDDやAAIといったモードを設定することができません。
原疾患と適応から適切な機種を選択する必要があります。
リードの有無
従来のリード付きペースメーカには胸の皮下に留置したペースメーカから心臓内へリードという電線を通します。
このリードは鎖骨下静脈という静脈の中を通します。
リードレスペースメーカは読んで時の如く、リードがありません。
リードの不具合に心臓内で位置がズレてしまうことや断線などがあります。
リードレスペースメーカは、リードがないため断線の不具合が起きません。
(リードレスペースメーカ自体の位置がズレることはあるようです。)
また鎖骨下静脈にリードを入れる必要がないため、血液透析で必要となる内シャントを今後作る場合には、鎖骨下静脈を温存させることができます。
適応


リードレスペースメーカの適応が、一般社団法人 日本不整脈心電学会より出ています。
VIII. 適応基準
適応基準は対象疾患と同一である。徐脈性不整脈に対する植込みデバイス植込みガイドラインのペースメーカ適応でのClassⅠおよびⅡで、VVI型ペーシングに適した患者のうち、下記の疾患をもつものとする。
1)心房細動を併発した症候性の発作性または慢性の高度房室ブロック
2)心房細動を併発しない症候性の発作性または慢性の高度房室ブロックを有し、心房へのリード留置が困難またはハイリスクあるいは効果的と認められない場合(デュアルチャンバペースメーカの代替手段)
3)症候性の徐脈頻脈症候群または洞機能不全症候群で、心房へのリード留置が困難またはハイリスクあるいは効果的と認められない場合(心房ペーシングまたはデュアルチャンバペースメーカの代替手段)
また、日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」も併せてご確認ください。
ペースメーカは心房細動という病気に弱く、心房細動が起こるとペースメーカはDDDモードで動作することが難しくなります。
そこでモードスイッチという特殊機能を使ったり、モードをDDIやVVIといった別の動作様式に設定を変更することがあります。

まとめ


- 現在、国内で植え込まれているリードレスペースメーカはメドトロニック社のMiceaという機種のみ。
- リードレスペースメーカは直接、心臓(右心室)内に留置する。
- リードの留置が不要。
- リードレスペースメーカの基本モードはVVI(R)で、DDDは設定できない。
- リードレスペースメーカは電池交換ができない。電池が減ったら新しい物を植え込む必要がある。
- 胸部の皮下にペースメーカを留置しないので、体を見ただけではペースメーカが入っていることが分からない。
- 胸部に皮下ポケットを作り、そこにペースメーカを留置するわけではないので、従来のような感染の心配のリスクが少ない。
さいごに

今回は「リードレスペースメーカの特徴と従来からあるリード付きペースメーカとの違い」について、簡単に説明させていただきました。
まだまだ植え込み症例の少ない新しいタイプのペースメーカですが、これからさらに発展する可能性のある医療機器だと思います。
今から関心をもっておくといいかもしれませんね。
