おはようございます。
この記事を書いている、臨床工学技士のジャックです。
心臓カテーテル検査・治療で使用されることがある補助循環装置。
補助循環装置を稼働させる場合は、アンギオ室(心臓カテーテル検査・治療をする部屋)を退室してからの管理体制を十分に整える必要があります。
先日、当院で経皮的補助循環装置(PCPS)を稼働させた経験をもとに、臨床工学技士として感じたことをまとめてみました。
Contents
はじめに
補助循環装置とは、心臓の機能を機械的に補助して全身に血液を送り出す装置の総称です。
補助循環装置には、以下のような装置があります。
- 大動脈内バルーンパンピング(IABP)
- 経皮的心肺補助装置(PCPS)
- 補助人工心臓(VAD)
- 補助循環用ポンプカテーテル(IMPELLA)
補助循環心臓(VAD)や補助循環用ポンプカテーテル(IMPELLA)は、手術の難しさや管理体制などの問題で認可を受けた一部の医療機関でしか使用することができません。
心臓カテーテル検査・治療を実施している施設では、大動脈内バルーンパンピング(IABP)と経皮的心肺補助装置(PCPS)を設置していることが多いです。

補助循環(IABP・PCPS)を開始するのは、そこまで難しくない
大動脈内バルーンパンピング(IABP)と経皮的心肺補助装置(PCPS)の両装置は、準備〜稼働までの段階において、臨床工学技士が行うことで難しいものはありません。
当然、事前にIABP用バルーンカテーテルの構造、PCPS回路の構造、各装置の準備から稼働までの操作方法は熟知しておく必要はあります。
またシミュレーションなどを通して緊急時でも慌てず、準備・操作できるように訓練しておくことも大切です。
急変時には一刻も早く心臓の動きを補助する必要があり、補助循環(IABP・PCPS)の回路構成はシンプルな構成になっております。
補助循環(IABP・PCPS)の管理は大変
中小規模の病院には、集中治療室がない
大動脈内バルーンパンピング(IABP)と経皮的心肺補助装置(PCPS)の両装置を開始させることは難しくないと述べました。
補助循環装置(IABP・PCPS)を運用する上で大変なのは、管理することです。
僕が勤めている病院を含めて、中小規模の病院では集中治療室(ICU)のない施設が多いです。
集中治療室(しゅうちゅうちりょうしつ)は、病院内の施設の一種。呼吸、循環、代謝その他の重篤な急性機能不全の患者を24時間体制で管理し、より効果的な治療を施すことを目的とする[1]。英語では Intensive Care Unit と呼び、日本でもICUという略号が用いられることがある。
集中治療室(ICU)では、手術後などの重篤な患者さんを医師・看護師・薬剤師・臨床工学技士などが一丸となって、24時間体制でケアに当たります。
経皮的心肺補助装置(PCPS)を管理するような場合は、集中治療室(ICU)のような24時間体制で患者さんのケアを行える環境が必要です。
中小規模の集中治療室のない医療機関が、十分な管理体制の整っていない環境で経皮的心肺補助装置(PCPS)を運用し、患者さんの全身管理をすることは難しいといえます。

英語でCoronary Care Unitと呼び、CCUという略語が用いられています。
なぜ、集中治療室がないとPCPSの運用は難しいのか
集中治療室には専門の医師(集中治療医)が24時間体制で常駐しています。
重篤な患者さんはいつ、どのようなタイミングで急変を起こすか分かりません。
急変を起こしたときに、すぐに専門医の的確な指示が出せる体制が必要です。
また看護師によるケア体制も、一般の病棟とは異なります。
一般病棟(集中治療室以外の病棟)では、患者7名に対して看護師1名の看護体制(7対1)や患者10名に対して看護師1名の看護体制(10対1)でケアが行われています。
集中治療室では、常時、患者2名に対して看護師1名(2対1)、必要時には患者1.5名に対して看護師1名での看護体制をとることが望ましいとされています。
(※日本集中治療医学会の集中治療部設置の指針より参照)
集中治療室では、重篤な患者さんだけを集中してケアできる環境が整っています。
一般病棟で大勢の患者さんのケアをしながら、経皮的心肺補助循環装置(PCPS)を使用しているような重篤な患者さんのケアを行うのは、看護師の負担が重く、結果的に安全な医療を提供できにくい状況となってしまいます。
管理できなければ管理できる施設への転院搬送を考える
中小規模の病院でもPCPSを開始しなくてはいけない時がある
急性心筋梗塞や心臓カテーテル治療中の合併症などで生命の維持に危険が迫っているとき、補助循環装置があるのなら使用しないわけにはいきません。
集中治療室のない医療機関だからという理由で、経皮的心肺補助装置(PCPS)を稼働させないわけにはいかないからです。

できるだけ早期に行うほど救命可能率が高まるため、大規模の病院が遠方にあることや受け入れ困難な場合には、近くの医療機関で早期に心臓カテーテル治療を行うほうが良いといえます。
管理に不安があるなら、管理できる施設へ転院搬送する
集中治療室がないのなら、経皮的心肺補助装置(PCPS)を伴う全身状態の管理ができる医療機関に転院搬送することを考えなければなりません。
大規模病院の集中治療室では、重篤な患者さんの全身管理を行うための体制と能力が備わっているからです。
中小規模の病院は、どうすればより安全に転送することができるのかを考える必要があります。
たとえば
- 大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助装置(PCPS)を使用しながら、どうすれば安全に搬送することができるのか
- 搬送する際は、病院内をどのような経路で患者さんを運ぶのか
- 搬送中はどのようなことに気をつける必要があるのか
など、考えるべきことは沢山あります。
患者さんの命を救うために転院搬送という手段をとることは、とても大事なことです。
転院搬送(てんいんはんそう)とは医療機関から他の医療機関へ患者を搬送することである。一般的にその医療機関で手に負えなくなったり、専門的な医療機関へ搬送する必要が出た場合行う。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

まとめ
集中治療室(ICU)のない医療機関で、経皮的心肺補助装置(PCPS)を伴う全身状態の管理を行う必要に迫られたときは
- 管理体制の整った医療機関への転院搬送を検討する
- 安全に転院搬送を行えるの方法を確立し、チームでシュミレーションを行う
さいごに
今回は、自施設で経験した経皮的心肺補助装置(PCPS)を使用した患者さんの転院搬送をもとに『経皮的心肺補助装置(PCPS)を管理するなら、集中治療室が必要不可欠』というテーマで記事を書かせていただきました。
もちろん、集中治療室(ICU)のない医療機関でも、経皮的心肺補助装置(PCPS)を伴う全身状態を安全に管理している施設もあるかもしれません。
そのような施設は、おそらく独自の管理方法を確立しているはずです。
しかし、そのようなノウハウの少ない医療機関では、転院搬送という手段を念頭に置き、より安全な転院搬送の手段を確立することと、シュミレーションの実践が患者さんの命を救うために必要なことだと痛感いたしました。
