
こういった悩みに答えます。
本記事の内容
- 臨床工学技士が他のコメディカルと異なるところ
- 臨床工学技士は業務や責任に対して評価を得にくい
僕は、臨床工学技士として10年以上働いています。
「臨床工学技士は治療屋」
これは、以前勤めていた職場の上司の口癖でした。
この言葉は他職種から異論を唱えられそうですが….
しかし、実際のところ臨床工学技士は他のコメディカルと異なるところがあるとは、僕自身も感じています。
今回は、臨床工学技士の仕事の特徴を解説しつつ、大変なところ・残念なところにも触れていきたいと思います。
この記事の内容は、あくまで僕の個人的な意見です。
一部のコメディカルに対して批判的に感じられるような表現が含まれていますが、僕は他職種に対して否定的な考えも軽んずるつもりも一切ありません。
以上を理解された方のみ、この記事をお読みください。
臨床工学技士が他のコメディカルと異なるところ

臨床工学技士が他のコメディカルと異なるところ・特徴を4つのトピックに分けて説明します。
- 臨床工学技士は治療屋?
- 臨床工学技士の仕事は患者の生命に直結する
- 臨床工学技士は広く、多くを学ぶ必要がある
- カルテから患者さんの情報を積極的に収集する必要がある
それでは、解説していきます。
臨床工学技士は治療屋?
以前の務めていた病院の上司は
「臨床工学技士は治療屋」
が口癖でした。
この言葉には
- 臨床工学技士は「血液透析」「持続的腎代替療法(CRRT)」や「顆粒球除去療法」など、直接患者の治療に介入できる。
- 心臓カテーテル業務によるIVUSやOCT、FFR測定、ペースメーカ植込み業務のプログラマーやアナライザーの操作、人工心肺装置の操作など手術に必要不可欠な役割を臨床工学技士が担っている。
などの意味があり、元上司はそこに誇りを持っているように感じました。
また、以下のような発言も耳にしたことがあります。
- 検査して終わり。画像を撮って終わり。あとは知らない。
臨床工学技士の仕事はそういったものではない
これは、他職種に対して批判的であり、いち所属長が口にするのは如何なものかと僕は思いましたが….
こういった考え方もあり、元上司は臨床工学技士は治療屋と口にしていたのだと思います。
臨床工学技士の仕事は患者の生命に直結する
臨床工学技士について、公益社団法人 日本臨床工学技士会は以下のように説明しています。
- 医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作及び保守点検を行う事を業とする医療機器の専門医療職種です。
- 医師をはじめ、看護師などと共に医療機器を用いたチーム医療の一員として生命維持をサポートしています。
公益社団法人 日本臨床工学技士会 HPより一部抜粋
生命維持管理装置とは
生命維持管理装置とは、人の呼吸、循環又は代謝の一部を代替し、又は補助する装置をいうものであるが、その例としては、人工呼吸器、高気圧治療装置、人工心肺装置、補助循環装置、体外式ペースメーカー、除細動器、血液浄化装置等があること。
臨床工学技士法
名前の通り、患者さんの生命を維持するための機械を操作します。
それはつまり、一歩間違えれば患者さんの生命を危険に晒してしまうことと隣り合わせということです。
診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士などコメディカルと呼ばれる医療専門職は多々ありますが、臨床工学技士ほど患者さんの生命に直結した仕事は無いと思います。
臨床工学技士は広く、多くを学ぶ必要がある
生命維持管理装置は人の呼吸、循環又は代謝の一部を代替し、又は補助する装置でした。
例えば、看護師の場合(あくまで一例)
- 呼吸器なら「呼吸器内科」「呼吸器外科」
- 循環器なら「循環器内科」「心臓血管外科」
- 代謝なら「腎臓内科」「内科」「糖尿病内科」など
- 呼吸・循環・代謝の超急性期「ICU」
のように、セクションが分かれています。
しかし、総合病院で働く臨床工学技士は生命維持管理装置を取り扱う以上、呼吸・循環・代謝の基礎知識を身につける必要があります。
広範囲の分野の基礎知識を求められた上に、医療機器の操作・トラブル対応・保守点検の技術を習得する必要があります。
正直これほど多くの知識を習得する必要があるコメディカルには他にはありません。
カルテから患者さんの情報を積極的に収集する必要がある
医療従事者なんだから、患者さんのカルテを見るなんて当たり前。
そう思われる方もいるかもしれませんが…
実は全ての医療従事者がカルテを見ているわけではありません。
例え見ていたとしても、自分の仕事に関係ない部分はほぼ見ない。なんてことはザラにあります。
勿論、全ての臨床工学技士が積極的にカルテを閲覧しているわけではありませんが…
しかし、カルテは閲覧した方がいいのは言うまでもありません。
- 生命維持管理装置を使用している理由は?
- 生命維持管理装置を装着した結果、何がどう変わったのか?
- どんな内服薬が処方されていて、ちゃんと服用できているのか?
- 定期的な検査(血液検査・CTR・心エコーなど)の結果は?
他にも沢山あります。
臨床工学技士は患者さんの治療に関わります。
特に透析業務では患者さんと深く、長く治療に関わることができます。
これは看護師を除くコメディカルでは、なかなか経験できないことかもしれません。
手術室業務や心臓カテーテル業務などの短期的なものから、透析業務のように長期的なものまで、患者さんと関われる。これも臨床工学技士の特徴といえます。
臨床工学技士は業務や責任に対して評価を得にくい

臨床工学技士が病院から評価を得にくい理由
- 独占業務がない
- 診療報酬が得られる業務が少ない
- 業務が理解されにくい
これらについて、深堀りしていきます。
独占業務がない
医療系の国家資格には「業務独占資格」と「名称独占資格」があります。
1)業務独占資格
医師、看護師、診療放射線技師などが該当します。資格を持っている人だけが、独占的にその仕事を行うことができます。
2)名称独占資格
栄養士、保育士、保健師、作業療法士などが該当します。資格を持っている人だけが、その名称を名乗ることができる資格です。まぎらわしい名称を用いることも禁止されています。
ジョブメドレー
「業務独占資格と名称独占資格、その違いとはいったいなに?」より引用
その人がいないと成り立たないのが「業務独占」
医業を行えるのは、医師だけです。
療養上の世話と診療の補助が行えるのは、看護師。
人体に放射線の照射が行えるのは医師、歯科医師、診療放射線技士だけ。
これらの業務を無資格者が行うと犯罪になります。
だからこそ、その人がいないと仕事が成立しない=資格の強み、といえます。
その人がやらなくても別に大丈夫なのが「名称独占」
臨床工学技士は名称独占資格です。
臨床工学技士の国家資格を持っている人だけが「臨床工学技士」を名乗ることができる。
これが「名称独占資格」です。
つまり、臨床工学技士の仕事は別に臨床工学技士ではなくて医師や看護師がやっても何の問題もありません。
独占してできる業務がないということは、他の資格でまかなえる=資格に強みがない、と言い換えることもできます。
診療報酬が得られる業務が少ない
病院はボランティア団体ではありません。
売上を出さないと経営が破綻してしまいます。
病院も潰れる、ということです。
では、どうやって売上を出すか。
そこで登場するのが「診療報酬点数」です。
医療行為には点数が決められており、行われた医療行為に対して値段が決められているわけです。
先にも述べたように臨床工学技士の仕事は医師や看護師が行っても問題ありません。そういった背景もあり、臨床工学技士がいること・行った医療行為に対して診療報酬がつく項目が少ないです。
自分が経営者ならお金を稼いでくれる人を多く雇用する、お金を稼げる人を稼げる部門に異動させる….お金にならない職種は必要ない。
このように考えられても仕方ない部分があるというわけです。
- 施設基準に提示される臨床工学技士(日本臨床工学技士会)
- 「令和 2 年度 社会保険診療報酬に関する改正・新設要望書」について(公益社団法人全国自治体病院協議会)
- 平成22年度診療報酬改定の概要(日本臨床工学技士会)
業務が理解されにくい
生命維持管理装置の保守点検も臨床工学技士の仕事です。
この保守点検がまた曲者です。
当たり前ですが、臨床工学技士による部品交換や業者の点検修理、このどちらにも費用が発生します。
タダで直すことなんて無理です。
定期点検だって部品を交換する以上、交換部品代がかかります。
また医療機器の新規購入、新機種への装置入れ替えなんてなったら桁違いの費用が発生します。
その請求は病院の資材科や用度科、経理課などを経由して経営者に届きます。
「なんだ、このバカ高い値段は!」
と言われること間違いなしです。
医療機器は高いですからね。
他社製品との操作性や価格、メンテナンス性などを比較・検討の上に見積書や稟議書を出しても、その値段一つで怒られてしまうことがあります。
そんな悲しい役回りもあるのです。
さいごに

前回の記事では、臨床工学技士の個別の業務における大変さについて紹介しましたが、今回の記事では臨床工学技士の仕事の特徴と資格を取り巻く環境について解説させていただきました。
こういった生の声は養成校でも、病院見学でも、病院実習でも分からないことです。
もっと知りたい、という方はSNSなどを通して臨床工学技士にコンタクトを取ってみることをおすすめします。
この記事が、将来臨床工学技士を目指そうと考えている方の参考になれば幸いです。
