おはようございます。
この記事を書いている、臨床工学技士のジャックです。
「体外式ペースメーカーを使用している患者さんのレート(HR)が伸びてる!」
とか
「自己心拍(R波)があるのに、その後すぐにペーシング波形が出ている!」
そんな心電図波形を見たことのある看護師さんもいるのではないでしょうか。
今回は体外式ペースメーカーのトラブル(ペーシング不全・センシング不全)の原因と対応について、お話しようと思います。
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ペーシング不全とその原因
先ずは、ペーシング不全についてお話しします。
ペースメーカーが電気刺激(ペーシング)を行っているのにもかかわらず、心房または心室が興奮しないこと。
ペーシング不全が起こると、どうなる?
一般的な体外式ペースメーカー(テンポラリーペースメーカー)の場合、モードは「VVI」であることが多いです。
この「VVI」モードでペーシング不全が起こると、徐脈や心停止を起こす危険性があります。
ペーシング不全が起きた場合には、早期発見・早期対処が求められます。
ペーシングとセンシングを心室で行うモード。
自己心拍(R波)があるか、ないかを常に監視しています。
R波がないときに、心室をペーシングします。
R波があるときは、心室をペーシングしません。(ペーシングを抑制する)
ペーシング不全の原因
ペーシング不全の主な原因をお話しします。
- リードの断線やリードの接続不良
- リードのディスロッジ(脱落)
- 電池の消耗
など
体外式ペースメーカーのペーシング不全の場合、①と②の原因が多いと思われます。
次は、これらの原因について解説します。
リードの断線、リードの接触不良
体外式ペースメーカーのリードが断線した、という話は聞いたことありません。
(植込み型ペースメーカーなら断線したケースを見たことありますが…)
どちらかと言えば「リードと体外式ペースメーカー本体との接続不良」が起こる可能性が高いと思います。
体外式ペースメーカーのペーシングリードは短いことがあります。
そのため、延長ケーブルを使用している場合があります。
リードのディスロッジ(脱落)
体外式ペースメーカーのリードは、最終的に身体の外に取り出します。
そのためリードは心臓内に置いてあるだけの状態となってます。
心臓内に置いてあるリードの位置が移動してしまうことで、電気刺激(ペーシング)が正しく伝わらなくなります。
リードの位置がズレてしまうことを、リードのディスロッジ(脱落)といいます。
電池の消耗
体外式ペースメーカーはアルカリ乾電池(9V・角型)で作動しています。
電池が消耗することで、電気刺激(ペーシング)を行えなくなります。
センシング不全とその原因
次に、センシング不全についてお話しします。
センシング不全には、[アンダーセンシング]と[オーバーセンシング]がある。
- アンダーセンシング
自己心拍(R波)があるのに、ペースメーカーが自己心拍が無いと判断して電気刺激(ペーシング)を行ってしまうこと - オーバーセンシング
自己心拍(R波)以外の電気信号(ノイズなど)を、ペースメーカーが自己心拍だと検出してい、必要な電気刺激(ペーシング)を行わないこと
※「VVI」モードの場合
難しいと思いますので、補足説明します。
アンダーセンシングになると、どうなる?
アンダーセンシングになると、自己心拍(R波)があるのにも関わらず電気刺激(ペーシング)を行ってしまいます。
これにより、不必要な心収縮を引き起こし胸の違和感の原因となります。
また、電気刺激(ペーシング)が心電図のT波の下降部分で行われてしまう(RonTと言います)と、心室頻拍や心室細動といわれる危険な不整脈の起こす原因となってしまいます。
アンダーセンシングの原因
アンダーセンシングの主な原因は…
- リードの断線やリードの接続不良
- リードのディスロッジ(脱落)
- 電池の消耗
- 設定の人為的なミス
など
体外式ペースメーカーのアンダーセンシングの原因について解説します。
リードの断線やリードの接続不良
ペーシング不全同様、リードの接続不良の可能性があります。
リードの接続不良が起こると、体外式ペースメーカーに心臓の微弱な電気信号が正しく伝わらなくなります。
心臓の電気信号が伝わらないことで自己心拍(R波)が無いと認識してしまい、アンダーセンスが起こる可能性があります。
リードのディスロッジ(脱落)
リードの留置位置が移動してしまうことで心臓の微弱な電気信号を検出できなくなってしまうことで起こります。
電池の消耗
電池が消耗することで、心臓の電気信号を正しく検出できなくなります。
設定の人為的なミス
感度の設定が鈍い(感度の設定の数値が大きい)ため、自己心拍(R波)を検出できない場合があります。
オーバーセンシングになると、どうなる?
オーバーセンシングになると、ペースメーカーが必要な電気刺激(ペーシング)を行わなくなってしまいます。
これにより、必要な心収縮が行われず気分不快、意識が遠のく感じ、失神などの原因となります。
最悪の場合、心停止状態が続き死亡してしまうことも考えられる危険な状態です。
オーバーセンシングの原因
オーバーセンシングの主な原因は…
- 筋電位
- 電磁干渉
など
体外式ペースメーカーのオーバーセンシングの原因について解説します。
筋電位
筋電位とは、筋細胞が収縮するときに出る電気信号です。
体外式ペースメーカーが、筋電位を自己心拍(R波)と誤検出してしまうことでオーバーセンシングを起こすことがあります。
電磁干渉
電磁干渉とは、体の外からの電磁波によってペースメーカーが誤作動を起こすことを言います。
体外式ペースメーカーを使用している患者さまが病院の外に出ることはないと思いますが、電磁干渉は病院の中でも起こる可能性があります。
MRI(磁気共鳴画像診断装置)やリハビリテーションで使用する超短波装置など強力な電磁波を発生する装置が医療機関にはあります。
トラブルへの対処
ペーシング不全、センシング不全などのトラブルに気付いた場合は、主治医や臨床工学技士にご連絡ください。
以下に記載したトラブルへの対処は、対処方法の一例になります。
ペーシング不全に対する対処
ペーシング不全に陥ると、徐脈や心停止を起こす危険性があります。
そのため、速やかにペーシング不全の状態を終わらせることが重要となります。
体外式ペースメーカーの場合の対処方法をまとめました。
- パルス電圧を高くする
- リードの位置を変更する
- リードを交換する
など
アンダーセンシングに対する対処
アンダーセンシングの状態に陥ると胸の違和感やRonTの原因となります。
体外式ペースメーカーの場合の対処方法をまとめてみました。
- 感度の設定を鋭くする(感度の設定の数値を小さくする)
- リードの位置を変更する
- リードを交換する
など
オーバーセンシングに対する対処
オーバーセンシングの状態に陥ると気分不快、意識が遠のく感じ、失神などの原因になります。
自己心拍(R波)がない場合は、心停止になることもあるため状況を把握する必要があります。
体外式ペースメーカの場合の対処をまとめてみました。
- 感度の設定を鈍くする(感度の設定の数値を大きくする)
- リードの位置を変更する
- リードを交換する
など
さいごに
今回は、体外式ペースメーカーのトラブル(ペーシング不全・センシング不全)の原因と対応ついて書かせていただきました。
体外式ペースメーカーは見慣れない医療機器かもしれませんが、一度トラブルが起こると重大な事故に繋がりかねません。
「心電図がおかしいかも」と思ったら、院内の臨床工学技士に連絡してください。
